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美容外科のすすめ

第 2 回・美容外科患者の心理―どうして美容手術を選ぶのか―

 美容手術を受ける患者さんは,一般の内科や外科の患者さんたちとは非常に異なるグループの人たちです.基本的に,美容手術はelective procedureと呼ばれ,医学的には可能だが必要ではない手術と考えられています.つまり,美容手術を受けなかったからといって,病気になったり健康を損ねたりするものではありません.ある意味では医学的に不要な治療ですので,内科医や一般外科医の中には否定的な意見をもっている者も多くいます.
 では,どうして多くの患者さんが美容外科を選ぶのでしょうか.今回はその心理について考えてみたいと思います.

アメリカでの美容外科手術の高まり

 過去10年間のアメリカでの美容外科手術の症例数をみても,この急激な人気の上昇には目をみはるものがあります.アメリカにおいては,いくつかの要因が考えられます.
 まずアメリカのaffluenceが取り上げられます.特に90年代のアメリカの経済成長をしっかりと支えたのはベービーブーマーの人々です. 50歳代に達したこの階層の人たちは一番収入が高く,時代の先端をいく消費グループでもあります.消費重視の経済体制の中で,まだまだ若いと感じるブーマーはたくさんいます.この人たちは手術によって若く健康的に見えるのなら,多少お金がかかっても十分に価値があると考える人々です.若い人に負けたくないとか,就職の際に若く健康的に見えることで競争に勝ち抜きたいという心理も関わってきます.
 このような経済状況のもと,マスコミに美容外科手術がたくさん取り上げられ,それまでのお金持ちやセレブの人たちのものと思われていた美容外科手術のイメージがもっと手頃なものというイメージに変わってきました.その現象をさらに加速したのが,“Extreme MAKEOVER"などのいわゆる「メイクオーバー」を中心にしたテレビ番組です.この人気によって,以前は関心のなかった人まで美容外科手術を考えるようになり,患者層のさらなる拡大を進めました.美容手術に関する情報と知識が浸透するにつれ,一般大衆の美容外科手術に対する不安は次第に和らいできますので,さらに患者層の開拓につながります.

 

豊胸手術にみる美容外科手術の効用

 それではどうして人は美容手術を選ぶのでしょうか? 豊胸手術を例にとってみましょう.私のクリニックに訪ねてくる豊胸希望の患者さんは18歳から55歳までと,幅広い年齢層にわたっています.最も多いのは20歳から35歳の世代です.独身者,既婚者,離婚者とすべてのグループの方がいます.豊胸を希望される人の問診をすると,皆さん大きな胸を希望されますが,そのサイズは人種,年齢,文化的な背景によって大きく異なります.

 豊胸患者さんの一例をとってみましょう.A子さんは19歳の独身女性で豊胸を希望しています.身長は 5 フィート 3 インチ(159cm),やや低め,体重110ポンド(50kg)です.現在大学の 1 年生,活発で交友関係も広く,友人との交際も順調です.ただ胸が小さいのが悩みで,現在32Aカップのブラジャーを着けています.現在のファッショントレンドからは,流行の洋服やドレス等を着ようとすると,胸が小さいためになかなか希望の魅力的なドレスを着こなせないことを大変気にしており,これが今の彼女の一番の悩みです.豊胸手術を受けCカップ(一番人気があるサイズはFull Cカップ)にしたいとのこと.私のオフィスに来た際,彼女は自然でやや大きめな胸にすることを希望していました.
 豊胸手術を受けた後,私のオフィスに術後の経過観察のために訪れた彼女の様子は大変ハッピーでした.彼女が言うには,胸が大きいことで洋服の選択にも不安が残らず,また,社交的にも交友関係にもより積極的に参加するようになったというのです.特に現在ポップカルチャーに象徴されるような,ややセクシーな洋服やファッションは,ある程度胸が大きくないとフィットせず,うまく着こなすことが出来ません.このようなファッションに適応することにより,彼女はさらに自分自身に自信がつき,交友関係,社会交際関係に非常にプラスになると考えています.
 ここでみられる変化は大変ポジティブなもので,特に患者さんの母親からは,ポジティブな面が強調される変化があったとのフィードバックをよく耳にします.

 次の例は35歳の離婚歴のある独身女性.子供が一人おり,現在離婚して 3 年になります.独りでの子育てにも慣れてきて,男性との交際関係などにも興味を持って積極的にしたいと考えています.しかし,出産によって胸の形がやや崩れ,少し垂れた感じがし,ボリュームも以前より小さくなった気がするため,積極的に交友関係や社会関係に携わっていくことに,ちょっとした抵抗感を持っています.このような方は,胸を大きくすればもっと自分に自信がつき積極性が出てくるのではないか,そしてそのことは交友関係や社会関係,人間関係にプラスに働くのではないかと考え,豊胸手術を希望されます.

 容姿がごく普通の方でも,このように豊胸手術を受けることで,洋服やファッションが変わります.その変化も加えたうえで,手術後によく耳にするのは周りの男性の態度が随分変わるということです.例えば,知らない男性をはじめ男性達が皆,長く世間話をしたり,建物に入る際にドアを開けてくれるといった小さな親切やゼスチャーなどが大変頻繁になったりするというものです.患者さん達への男性からのattentionが顕著に増加するというのです.

 

美容外科手術のもたらすもの

 患者さん達からは,豊胸手術を受けたことにより,周囲の男性の態度ががらりと,ポジティブに変わったということをよく耳にします.このことからも分かるように,豊胸手術による心理的なインパクトは顕著なものがあります.一般的にはポジティブなものがほとんどであり,豊胸手術で自分自身により自信がつき,社会生活にも積極的に参加し始める傾向があるようです.特にこのような効果は,あまり手術に期待の高くなかった患者さんに比較的よくみられます.
 手術前に,手術をすれば人生が変わるというような非常に高い期待を持たれる方が患者さんの中にはいらっしゃいますが,中には実際に手術をすると,後で多少失望する方があります.といいますのも,手術により人生が変わることを期待されているからです.実際は,手術の結果を上手に使うことで,患者さん自身の性格や行動にポジティブな変化が出るものなのです.よくある美容手術のmythは,手術を受けることで人生が変わる,あるいは人間の性格が変わるという考えですが,実際問題としては個人の自分自身に対する自信をひきのばすという効果が一番顕著であると考えられます.

 豊胸手術は,基本的には非常に個人的な手術です.患者さん個々はそれぞれに考えて,豊胸手術を受けることを希望されています.個々の患者さんのバックグラウンドはそれぞれ異なりますが,共通しているのは「格好良く見えたい」という動機です.自分の身体的な「短所」を,手術によって本来持っていなかった「長所」に変え,自分自身の体に関する自信を得ようというものです.このような,体の特長をお金で買うという風潮はアメリカ的かもしれませんが,手術によって安全に身体特長が得られるのであれば問題はないのではないでしょうか.

 もう一つよくみられる傾向は,一度美容手術を行うと,次々といろいろな美容手術を希望し受けるというものです.特にこの傾向が顕著なのは,最初の手術がうまくいった場合です.一つの手術がうまくいったために,手術に関しての不安が取り除かれ楽観的になるためでもあります.また,そのポジティブな影響を受け,例えば豊胸の後で,タミー・タックあるいは脂肪吸引,その次には目のたるみを取る手術,後にはフェイスリフトと,次から次へと美容手術を受けたくなるという例は非常によく見受けられます.これはおそらく,一つ治すことによって,そのインパクトを実際に感じ,非常にポジティブな効果を患者さん自身が体験することにより,それまで少し気になっていたところをさらに治したいという気持ちに変わってくるからです.したがって,一カ所治すと今まであまり気がつかなかったところが気になってくる,そのため,ひとつひとつ治して改善するという傾向です.
 もちろんこのような患者さんがたくさんいる反面,最初の手術がうまくいかないために,数々の修正手術を行わなければならないという悲劇的な患者さんも少なくありません.しかしながら,このような患者さん達も同じような精神的傾向を有しており,患者さん個人にとってベストな美容外科医を探し続けるという流れがあります.例えば最初に豊胸手術を受けたがうまくいかなかったために,別の美容外科に行って修正手術を受けることもあります.これを繰り返すことによって,自分の求めている理想の美容外科医を探すのです.いずれは患者さんの探し求めていた美容外科医に巡り会うことになるという例がよくあります.

 

美容外科手術―日本人患者の場合―

 私のクリニックの経験からいいますと,一般的に日本人の患者さんは,手術に対する不安が非常に大きいように思われます.もしうまくいかなかったら困るという不安が大変強く,特に大きな切開を要するような手術,例えばタミー・タックなどは敬遠されがちです.
 さらに,非常に興味深く思われるのは秘密主義です.日本人の患者さんは,友人あるいは知り合いに美容手術を受けたことを隠す傾向にあります.この傾向は他の人種に比べると随分違っています.白人あるいはヒスパニック系の患者さん達は,逆に手術を受けることを友達あるいは知人達に知らせ,うまくいけばその美容外科医を知人達にどんどん紹介するというように,非常に開放的です.このようにハッピーな患者さん達の友人や知人達から新たな患者さんがますます増えていくというのが,一般的な美容外科医のプラクティスの傾向です.しかしどういうわけか,日本人の患者さん達からはこのようなreferralというものがありません.これは日本人の患者さんに特有の傾向といえます.他のアジア系の患者さん,例えば,中国人,韓国人,ベトナム人の患者さんなどは手術を受けることに対して非常に積極的で開放的ですが,日本人の方は対照的に非常に閉鎖的です.
 自分の体の特徴を手術的に変えることに何らかの抵抗があるのが,背景の一つとしてあるのかもしれませんし,また美容手術自体が社会的にあまり認められていない風潮があるのかもしれません.仏教などの宗教的な考え方等を理由に,日本人にこのような傾向があるのではないかと指摘する人もありますが,他の仏教国,特にタイなどと比べても,日本人のこういった秘密主義は大変顕著で,ある意味では非常に興味深い傾向であると考えられます.私自身が考えるには,前回も指摘しましたが,日本においては美容手術という医学の分野がまだしっかりと確立されていないところに問題があるのかもしれません.美容外科がしっかりとした診療科目として確立されていないために,このような手術を受ける患者さんにネガティブな面で影響しているのではないかと思われます.
 手術を受けることにより外見を変える,そしてその変化によって社会的かつ心理的にポジティブな変化を希望するというのがアメリカの状況です.これが日本では手術を受けたことにより,かえってその変化がネガティブに受け取られるという傾向があるからではないでしょうか.このような傾向も少しずつ日本では和らいできているようですが,アメリカの社会風潮と比べると,まだまだ遅れているように思います.

 

第 1 回・美容外科の臨床研修―美容外科をいかに教えるか?― 第 2 回・美容外科患者の心理―どうして美容手術を選ぶのか― 第 3 回・シリコンジェル・インプラントの再許可―選択肢の増えた豊胸手術― 第 4 回・blepharoplasty―二重術と若返り術―

PROFILE

Alex Kim

アレックス・キム
Alex Kim

Beverly Hills Plastic Surgery, Beverly Hills, CA, USA
http://www.alexkimmd.com/


 愛媛県松山市出身,松山東高校卒業.1978年長崎大学医学部に入学,1984年卒業の際に当時の形成外科教授・難波雄哉教授に師事,長崎大学形成外科教室に入局.2 年間の研修医を終えた後,1986年に渡米.ECFMG獲得後,アメリカでの医師免許を取得.1988年より1 年間,Pittsburgh大学形成外科教室にて筋肉の拡張の基礎研究に従事.この研究は後に1990年ワシントンDCでの形成外科リサーチ・カウンシルにて発表.1989年に一般外科のレジデントを開始,ロサンゼルスのCedars-Sinai Medical Centerを経て,1991年から 1 年間,Loma Linda大学形成外科にて臨床フェローとして働いた後,Loma Linda大学にとどまり,一般外科のレジデントを1995年に終了.1995年から1997年の 2 年間,ロサンゼルスのSouthern California大学にて形成外科のレジデントを終了.日米を含め11年間のトレーニングの後,ビバリーヒルズで開業し,現在にいたる.一般形成外科を含めて,美容外科を中心に活動.

 2001年からはアフリカのナイジェリアでの形成外科ボランティア活動を開始,主に唇裂,口蓋裂,さらに一般形成外科再建手術,熱傷再建手術など多種の手術を手がける.2004年からはベトナムのハノイを中心にベトナム北部の農村に出かけて,唇裂,口蓋裂の診療活動を行う.ビバリーヒルズのオフィスでは,顔と乳房の美容外科を中心に診療活動を推進する.

 アメリカ外科および形成外科のボードの認定医,有資格者.アメリカ形成外科学会(ASPS)正式会員.アメリカンカレッジオブサージョンズのフェロー(FACS)およびカリフォルニア形成外科学会の正式会員.